投稿者: LIT

  • ハムレット第三独白をやってみよう

    1 はじめに

    『ハムレット』といえば、有名なのは第四独白「現状維持か現状打破か(生きるべきか死ぬべきか) To be, or not to be, that is the question.」ですよね。そのセリフを言うためにも、そのすぐ前に出てくるこの第三独白がめちゃくちゃ大事なのです。悩むハムレットの前に旅回りの劇団がやってきて、トロイ戦争の最後の日の場面を演じてみせるのです。それを見たハムレットが、演劇の力に圧倒され、さあどうする!というところです。

    三輪えり花は、ちょうど『トロイ戦争は起こらない』で、まさに第三独白に登場するトロイ最後の王妃ヘキュバを演じるために、この第三独白を復習しました。ハムレットは一度演じたことがありますが、にもかかわらず、たくさんの発見があったので、これはワークショップをやったら俳優さんの助けになるんじゃないかと思った次第です。

    数回にわたるワークショップなので、解説動画もかなりの量になりました。今回公開するのは、「物語を知る」です。舞台が開く前に、ハムレットの身に何が起きていたのか、どんな時代だったのか、人々はどんな考え方をしていたのか・・・それらを知ることによって、演じているときのキャラクターの心理や頭の中を演じるのがめちゃくちゃ楽しくなるのです。

    興味のある方、ぜひご覧ください。

    2 翻訳比べ & 超重要!独白のお約束

    坪内逍遥の翻訳をまずご覧ください。
    その部分を、現代の代表的な翻訳家たちがどんな言葉にしているのかを見てみましょう。
    小田島雄志・松岡和子・河合祥一郎の三氏の翻訳です。
    翻訳によって、キャラクターさえ変わるのがすごく面白いのです!

    気持ちを入れる音というのがあってね、英語だと G とか D とかが、激しい気持ちを表現しやすいと言われています。(ぐお〜、とか、だ〜、とか、フラストレーションを感じているとき、言っちゃいますよね。あれです)
    動画の中で詳しく解説していますが、それらを日本語の翻訳者も活用しています。さすがですね。

    さて、演技をする時は、ある一定の演技に陥らないように注意しましょう。
    ハムレット、と聞くと、だいたい腕を組んで暗く落ち込んだ真面目な顔で演じがちです。
    が、ハムレット自身が台詞の中で言っているように「すぐキレる」男なのです。
    なので、一度は、キレがちなハムレット、一人で暴れ散らかすハムレット、で演じてみると新しい発見があると思いますよ。

    また、動画の後半では、独白を演じるときのお約束についてもお伝えしています。これ、超重要! 世界中でシェイクスピアの独白はこう演じる、というのがお決まりになっています。日本でも外国語で世界の演劇に触れている演出家たちは取り入れています。あなたもぜひ!

    つづく

  • トロイ戦争とは

    トロイ戦争とは

    トロイ戦争ってなに?

    トロイ、なに?食べられるの?

    え、国?世界の国リストに載ってないけど。

    そうなんです!
    トロイは3000年前の古代ギリシャの詩人ホメロスが書いた叙事詩『イリアス』に登場する伝説の国。ギリシャの神々の仲違いによって滅亡したと書かれています。

    ところが19世紀のドイツの若者シュリーマン君は子供の頃にこれを読んで感動し、この話は絶対にどこかに存在したリアルな国のことに違いないと信じてギリシャ語トルコ語の会得その他諸々大変な勉強を重ねて探検家となり、まぁ今ならちょっと問題になりそうな微妙な方法で資金を貯め、『イリアス』片手に遠路ギリシャへと出かけ、遂にそれらしき遺跡を発掘することに成功したのです!


    で、どこにあったの?

    「ギリシャ」は、現代ではヨーロッパ大陸の南にぶら下がる半島部分の国のことですが、かつては地中海を中心に、その周辺エリアの「ギリシャ文明圏」全体を指していました。地中海を中心に置いて地図を見てみるとよくわかると思います。陸から海を見るのではなく、海から陸を見るのです。

    地中海の北に今のギリシャ、東に今のトルコ、南に今のエジプト、西に今のスペインからモロッコに至るまでが含まれます。トルコはアジア大陸の西の端に当たり、メソポタミア文明の西端にも当たります。

    シルクロードはイスタンブールまで来ていますから、今のトルコに当たるところは、ギリシャ文明圏と、それよりも遥かに古いメソポタミア文明圏との混ざり合った場所なのです。さらによくこの地中海中心地図を見てみましょう。海に沿って北上すると、なんと!今も今、悲惨な戦争真っ只中のクリミア半島があります!ロシアがクリミアを手に入れたい理由は、地中海への通路を確保したいからですね。地中海への入口には今のイスタンブールがあります。イスタンブールは、あらゆる文明の要素が港を通じて交流する場所であることがよくわかります。ついでに、なぜ今、ロシアはトルコとは仲良くしておこうとしているのか、その理由も見えてきますね。

    シュリーマンは、トロイはイスタンブールの近くではないかと睨み、その予想は的中しました。トロイであろうと思われる遺跡はイスタンブールから海岸沿いに南へバスで半日ほど下ったところにあります。

    トロイ戦争が起きるまではどんな世界だったの?

    ギリシャ文明圏とは、現代の私たちが便宜上名づけているだけで、古代ギリシャ人たちは「ギリシャ」という単語さえ使わず、その地域を「ヘラス」と呼んでいました。ヘラスには、たくさんの小さな独立王権国家があり、所謂「群雄割拠」もしくは小競り合いの状態でした。トロイ戦争より前は、ヨーロッパ大陸側にあるヘラス諸国のどこよりも、アジア大陸側にあるトロイが地中海のトップに君臨する強大な王国だったと考えられます。

    フランスの劇作家ジャン・ジロドゥの戯曲『トロイ戦争は起こらない』は、トロイ戦争が起きる日のことを描いているのですが、そこには、英雄ヘクトル(フランス語読み エクトル)の言う、自分はアジアを平定してきた、という台詞があるんですよ。小国同士がワイワイやっていたヘラスに対して、トロイは、アフガニスタンあたりまでの全域を手中にして他のではないでしょうか。略奪だけではなく、平定した国々や通商路の確保、整備をし、そのおかげで豊かな農産物・海産物の生産と貿易の両方で富みに富み、溢れんばかりの金銀財宝がトロイに集まってくる。その城の中で、戦いに出ていない人々つまり戦えない老人や病人、子供と女たちは、どれほどどっしりと着飾り、華やかに富と栄華を謳歌していたことでしょう。文明の中心、経済の中心、商業の中心、政治の中心は、トロイ戦争の前までは、トロイにあったと考えられます。

    トロイ戦争はなんでそんなに有名なの?

    神話だと思われていたものが、実在したとなった世界的なニュースがトロイを有名にしたのは言うまでもありません。が、シュリーマンが感動するほどの物語としてそれを書き残した古代ギリシャのホメロスが、そもそもトロイ戦争を題材に選ばなければ、シュリーマンの発掘にも結びつかなかったわけです。ということは、トロイ戦争は、ホメロスが超大作『イリアス』の題材に選びたくなるほど、古代ギリシャで語り継がれてきたものすごい戦争だったということではないでしょうか。

    ではなぜ古代ギリシャ人たちはトロイ戦争を語り継いで来たのでしょう。トロイ戦争の前まではヘラスは小王国の群雄割拠状態だったことを思い出してください。トロイ戦争の発端は、大国トロイが、小国スパルタの王妃ヘレネを誘拐したことから始まりました。ヘレネは大変な美女だったので、ヘラス中の王たちが妻に迎えたがりました。そこで、ヘレネが誰と結婚しようとも、その結婚相手が危機に陥った際にはみんなで一緒に彼を助ける、という約束を小王国の王族同士で交わしました。だから、ヘレネがスパルタから攫われた時、ヘラス中の小国が初めて一致団結して大連合軍を結成したのです。

    国同士が一致団結するのは、現代世界を見ても大変難しいことはわかりますよね。そう、すごいことだったのです! そしてヘラス連合軍はトロイを滅ぼし、地中海の主権はヘラスの中でも、ヘレネを奪われたスパルタ国に移りました。ね、ヘラス中の国が一致団結して主権を、アジア大陸にあるトロイから、ヨーロッパ大陸にあるヘラスのものとした、そこから今の現代文明の流れが確定しました。現代の彫刻も数学も天文学も建築も演劇もスポーツもそして民主主義の考え方でさえ、古代ギリシャ発ですからね。ギリシャ文明はローマ(イタリア)に受け継がれ、紀元前1世紀にジュリアス・シーザーのヨーロッパ遠征でローマ文化がフランス、ドイツ、スペイン、はるかイギリスまで届き、16世紀ごろにスペインやイギリスが花開いた文化をアメリカ大陸に広めた、そして今、日本でそのアメリカ文化を享受している・・・この流れはどれもつながっているのです。その発端がトロイ戦争にあると思うと、どれだけすごい大事件だったか、これでわかって頂けたでしょうか。

    トロイはスパルタ一国になら、苦もなく勝てたでしょう。が、ヘラス連合軍はトロイを絶滅させました。ただ一人アエネイスが逃亡し、ローマを建国したという伝説がありますが、トロイ側が書いたトロイの記録はどこにも残っていません。いま、私たちが読めるのは、ギリシャ側のホメロスの手に依るものだけです。因みにシュリーマン が掘り返した地層は、トロイに存在してきた歴代の城壁層の中でもトロイ戦争時代よりも更に古いものだそうで、現代考古学では、滅亡したトロイはそれよりも上の層にあったとわかっています。が、シュリーマンが上の方の層は保存せずにひたすら破壊して進んだため、肝心の滅亡時のトロイ遺跡部分はかなり破損してしまい、研究が進まない状態だそうです。残念!

    トロイ戦争前のトロイはどんなところだったの?

    トロイ遺跡が発掘された場所の項目でも述べた通り、トロイはアジア大陸の西端にあり、そこは豊かな地中海(地中海もそのエリアに依って各名称があり、この辺りは特にエーゲ海と呼ばれます)に面しています。都市の東には肥沃な平原や山々を抱える一大農業生産地があります(現在でも)。前述『トロイ戦争は起こらない』にも、ヘラス連合軍側の交渉大将オデュッセウスが、野菜と小麦と黄金を有り余るほど持つのは危険だ、と言っています。一方、スパルタのあるペロポネソス半島はじめヘラスは乾燥した大理石の大地で、農産物はあまり豊かではないのです。海産物は豊富ですが、陸地はオリーブと羊に頼る、豊かとは言えないエリアです。ヘラス諸国が大連合軍を組んでトロイ陥落または略奪を狙うのは頷けます。

    トロイ戦争時のトロイ側の王室は子だくさん!

    トロイ戦争前の、栄華を極めていたトロイを治めていたのはプリアモス(フランス語読み プリアム)。何十年にも亘り戦に戦を重ね、勝ち続けてきた歴戦の勇士です。生命力の強さはものすごく、彼の子供は娘18人、息子68人ほどもいたと言われています。息子たちは数多くの戦で次々に戦死。戦で子供が死ぬ悲しみを覆い隠すかの如く、次の子供の生産に励んだ気持ちが読み取れます。正式な妻は二人で、トロイ戦争の時期の妻ヘカベは、二人目のひとです。ヘカベ自身、トロイ戦争前夜までに19人の子供をもうけています。中でも有名なのは、最年長のヘクトル、預言者カサンドラ、美男子パリス、太陽神アポロンの息子とも噂されるトロイロス、最年少の娘ポリクセヌなどがいます。彼ら全員がトロイ戦争で、また、戦後の捕虜の身で惨殺されたりして死んでしまいます。壮絶ですね。

    で、トロイ戦争はなぜ起きたの?

    よろしいですか、トロイ戦争に関しては、ギリシャ側の書き手による情報しかありません。『トロイ戦争は起こらない』にも、ヘクトルが「ギリシャ人は、肥沃なトロイを攻撃するために、神々との恋物語をでっち上げて自分たちの行いを正当化するだろう」と言います。ヘレナ自身も「この時代の人たちがそれはこうだった、と見方を主張すれば、それが本当のこととして語り継がれる」と言います。この辺りは第一次世界大戦で従軍して地獄を見てきたジャン・ジロドゥの実感でしょう。事実は、勝者に都合よく書き換えられる、と。ですから、トロイ戦争の発端は、ヘラス諸国がトロイを滅ぼしてトロイの富を自分たちのものにしたかったから何かと口実をつけて攻撃した、というあたりがおそらく真実でしょう。では、ヘラス側が、攻撃を正当化するために神話と結びつけた、それをご紹介します。

    ゼウスの策略

    ギリシャの神々のボスであるゼウスは、人間が地上に増えすぎたので、戦争で人口を半分にすることを思いつきました。(はい、マーベルユニバースのサノスみたいですね。)その方法として、ゼウスは神々を仲違いさせることにします。ある神の結婚式に、ゼウスは戦の神を招待させないように計らいます。戦の神は腹を立てて、その結婚式に「最も美しい女神へ」と、林檎を投げ込みました。そこにいた女神の中でもプライドの高い3人がその林檎は自分のもの、自分こそが最も美しいと言って聞きません。その3人とは、結婚と母性の神ヘラ、知恵と芸術の神アテナ、と、愛と美の神アフロディテ。彼らに任せていてもにっちもさっちもいかない、と、ゼウスは美の審判を美しい羊飼いパリスに委ねることを提案します。

    でも、それがどうして戦争に繋がるの?

    パリスという男

    パリスは、そもそもトロイの王子として産まれました。ヘカベはこの子を出産するときに、この子がトロイを滅ぼすと預言されました。父プリアモスはこの子を殺すことを命じます。が、心優しい部下はこの乳飲み子を自分の手で殺すことができず、ヘラスの山に置き去りにしました。(はい、ギリシャ悲劇オイディプスの話とそっくりですね。)この子は美しく光り輝いていたので羊飼いに拾われ、パリスと名付けられて元気に明るく成長しました。今日も今日とて羊を山へ連れていき、自分はのんびり昼寝をしていたところ、ゼウスが3人の女神を引き連れて御降臨。びっくりです。そしてこの3人のうち誰が一番美しいか選べと命じられます。女神たちはこっそり彼を買収しようとします。ヘラは誰よりも高く君臨する力を、アテナは誰よりも勇ましく強い力を、アフロディテは世界一の美女を与える、と。さて、もしあなたが、自分は王族とは知らず、のんびり昼寝をして長閑に暮らしたいなら? はい、パリスも同じです。権力も武力も要りません。選択に迷いはありません。美女です!

    パリスは林檎をアフロディテに与えました。これが、「パリスの審判」と世に言われている逸話です。

    りんごをもらったアフロディテは、世界一の美女ヘレネをあげよう、と言うのですが、彼女はスパルタのメネラオス王のお妃です。いくらなんでも羊飼いと王妃では、出会う接点さえありません。そこでゼウスは打ち明けます、お前は実はトロイの王子なのだ、と。え、二度びっくり!一旦国へ帰り、王子として時期を待て、と。

    パリスは見知らぬ生まれ故郷トロイへ船で帰ります。ちなみに、羊飼い時代にかれは結婚していたので、妻も一緒にトロイへ。

    迎えた母ヘカベの喜びようは想像にあまりあります。この子を二度と手放すまい、国が滅びようと構うものかとの思いさえあったことでしょう。父王プリアモスももう反対しません。預言は間違っていたのだと信じたのかもしれません。

    そして待ちに待った好機到来。パリスはプリアモス王にスパルタ出張を命じられたのです。王子としてスパルタの城を正式に訪問したパリス王子は、メネラオス王の横に座すヘレネ王妃と初めて出会います。アフロディテの恋の矢に射抜かれたヘレネはパリスと恋に落ち、二人は駆け落ちします。双方ともに伴侶がある身でのダブル不倫。パリスは大変に美しい青年として描写されていますから、アフロディテの恋の矢がなくてもヘレネは恋に落ちたかもしれませんね。そして、上述したように、「ヘレネの結婚相手が危機に陥った際にはみんなで一緒に彼を助ける」という約束のもと、ヘラス中の国々が一致団結してトロイに攻め入り、戦争になったというわけです。文明を一つ滅ぼして、「いやこれ神様の仕業なんで」と言いたい勝者の気持ち。もしかしたら、ヘレネを攫うようパリスに仕向けて、トロイ攻撃の口実に仕立てた可能性だってありますよね。歴史は常に勝者の目で、勝者を正当化するために描かれる。敗者の目で眺めてみるのも一興です。

    トロイ戦争の中身

    ギリシャ側のホメロスの記した『イリアス』によれば、戦争は10年続いたと書かれていながら、最後の数ヶ月のことを描いているだけで、この10年の戦がどんなものだったか、詳しいことはわかっていません。トロイ戦争に関することは古代ギリシャの詩人や歴史家が書き残した英雄譚や戯曲から、ギリシャ人側の目線でのことはおおよそわかるのですが、トロイ側からの資料がないので、実際の姿については、想像するしかないのです。ホメロスの筆は、ヘラス連合軍はトロイの浜辺に陣取り、戦争勃発の日から大変に優勢で強かった、としていますが、勝者の目というフィルターがかかっています。攻め込んだ戦が10年も勝負がつかないということは、トロイが強かったことの証明に他なりません。一方で、出張状態なのに決して敗北はしなかった、浜辺の陣地を退却しなかったことを思うと、ヘラス連合軍もまた根性があったのは確かです。連合軍ですからね。

    トロイの木馬

    さて10年も攻防が続いても、トロイの素晴らしい城壁は全く落ちそうにない。あの城壁の中に入れれば望みはある。だが、とてもじゃないが近づくことさえできない堅牢さ。そこでヘラス連合軍の大将オデュッセウスはある策略を講じます。浜の陣地を引き上げて、ついにヘラス連合軍は諦めた、とみせかける。そこに、巨大な木馬を神への捧げ物のていで置いていく。馬が大好きなトロイ人は(ギリシャ人も馬は好きです、大事にします)きっとこの木馬を城内に引き入れるに違いない。その木馬の腹の中には大勢のヘラス兵を忍び込ませておく。勝利を信じたトロイ人は大宴会を開くだろう。もう戦う必要がないと信じた軍人たちもぐでんぐでんに酔っ払うだろう。泥酔した寝込んだそのとき、木馬の腹から這い出して、城門を内側から開けろ。港の裏でこっそり待機していたヘラス連合軍が一気に攻め入り、女の横で素っ裸で涎を垂らして寝こんでいるトロイ人たちを片っ端から切り裂いてくれる。そして城に火を放つ。

    預言者カサンドラは、がらんとした浜辺に取り残されている木馬を見た時、これのせいでトロイは滅亡すると預言します。が、カサンドラには「預言を誰にも信じてもらえない」という呪いを、太陽神アポロンにかけられていまして、そのために誰もカサンドラのこの預言を聞いてくれないのです。ちなみにアポロンがなぜカサンドラにそんな呪いをかけたかというと、カサンドラに恋をしてフラれたその腹いせに、です。ええ、フラれた男の陰湿な仕返し、太陽神のすることとは思えません。なんなの、男って!と腹も立てたくなる逸話でした。

    こうしてオデュッセウスの目論み通りにことは進み、トロイは陥落しました。ヘクトルもパリスもトロイロスも、これまでの10年の間に殺されており、この陥落の日に城内で殺された有名人は、プリアモス王のみ。女たち(カサンドラ、ヘカベ、ポリクセヌ、アンドロマックらとその侍女たち)は捕虜もしくは戦利品としてギリシャへ送られ王族の奴隷にさせられます。古代ギリシャの劇作家エウリピデスの戯曲『トロイアの女たち』によると、カサンドラはアガメムノンの、アンドロマクはプリアモスを殺害したネオプトレモスの、ヘカベはオデュッセウスの元へ送られます。その屈辱を思うと涙が出ます。この戯曲はキャサリン・ヘップバーンがヘカベを演じて1971年に映画化されました。

    ちなみに、これは三輪えり花の想像ですが、城壁を壊すための投石機が木馬のような形をしていて、愛称として「木馬」と呼んでいたのではないかしら。だとしたら浜に残してあっても違和感はないし、武器として持ち帰りたくもなるのでは。

    トロイ遺跡を見てみよう

    この記事を執筆している三輪えり花、2005年に『つづきゆくものがたり〜千とひとつの夜を超えて』という、アラビアンナイトを題材にしたミュージカルを創作、製作、演出、出演した関係で、アラビア的な文化を見に行きたいな、と公演直後の12月末、トルコに行ってきました。その際、イスタンブールからバスで5時間かけてトロイ遺跡を訪ねた、そのときのお写真をお見せしますね。

    シェイクスピアに出てくるトロイ戦争の例

    シェイクスピアは『トロイラスとクレシダ』という戯曲で、トロイラスの恋と悲劇を描いています。が、タイトルになっていなくても、トロイ戦争がらみの遊びをちょこちょこといろいろな戯曲に入れています。例えば・・・

    『夏の夜の夢』の主人公のひとりは「ヘレナ」というもてない女の子が自分は醜いからクマも逃げ出す、とぼやいているところ、目に魔法をかけられた青年が「おお、ヘレン、トーラスの高嶺に降る雪よりも白いその手!」と呼びかける場面があります。魔法をかけられた青年の目にはヘレナが絶世の美女ヘレンの生まれ変わりと写ったのです。トーラスはトルコにある山脈のことで夏でも雪を被っています。トロスとも呼ばれ・・・はい、そうです、トロイという地名の由来にもなっています。

    『ハムレット』では、旅芸人の一座がやってきたとき、ハムレットに頼まれ、トロイ陥落の様子を詠唱する場面があります。真夜中に奇襲を受けたトロイの城が炎に包まれ、天守が轟音を上げて崩れ落ち、ヘカベが逃げ惑うその目の前で、夫プリアモスがギリシャ軍の武将に惨殺される。それを見たヘカベの上げた絶望の叫び声が描写されます。

    演劇や映画を観る際、演じる際、上演する際に、役に立ちそうなことをまとめました。ほかにも知りたいことがあれば、お気軽に質問してくださいな。

    文責:三輪えり花


  • 綺麗で強いのが好きなのは生物の本能。と同時に…

    綺麗で強いのが好きなのは生物の本能。と同時に…

    猿もライオンも、虫も鳥も魚も、綺麗で強いのが子孫繁栄のために選ばれる。
    生物 ならば必ず、種(しゅ)を残すために、それが生存本能に埋め込まれている。
    だから、我ら人間が、強くて綺麗なものを好むのは、かなり原始的に当然のことと言える。

    綺麗で強いものに憧れ、それを良しとするのは、恥ずかしいことでも反モラルでもなんでもない。
    種の保存のためにあまりにも深く脳幹に埋め込まれている、生存のための本能なのだ。

    では、種の保存に「役立たない」ものは居なくて良いのか?

    そんなことはない。
    さまざまな生物たちが、弱ったもの、困っているものを集団で助ける習性が観察されている。
    ある一人の俺様が特別に生き残るのが自然の法則なのではなく、集団として弱いものも一緒に生き残っていく、つまり集団としての繁栄、それが自然の法則なのだ。

    異質なものの排除についてはどうだろう?

    我らは似たもの同士で集まりたがるが、同じ部族内のみでの生殖が行われて、違う血が入らないと、遺伝情報が寧ろおかしなことになっていくのは良く知られている。いわゆる近親婚だ。それでわかるように、異質なものを受け入れることが、そもそも自然の法則では奨励されているのだ。

    綺麗で強いものに惹かれるのはあたりまえ。
    弱いもの、異質なものを受け入れるのも、実はものすごく必要。

    この両者を常に意識して、どうすれば自分の中でそのバランスをとっていくかを考える。

    それも【Live Interaction】

  • 演技の基本:言葉をはっきり

    演技の基本:言葉をはっきり

    舞台でも映像でも、たとえマイクがあったとしても、

    言葉ははっきりしゃべります!

    女性, 耳を傾ける, 内側の声, クライ, 耳, 聴覚, 警告, 叫ぶ

    どんなにナチュラルな芝居でも、

    言葉を届けます。

    え?それじゃ芝居くさくなってナチュラルじゃなくなっちゃうんじゃない? 

    はい。なんの訓練も受けずに、ただ言葉をはっきり聞かせるつもりで喋るだけだと、芝居臭くなります。

    それは素人のやること。

    職業として演じる人をやるならば、言葉はどんなにぶっきらぼうでぶつぶつ喋るような人を演じても、観客に言葉が伝わるように、さまざまな技術を磨いていくのです。

    だから職業俳優は、本当に大変なのです。

    みんな、軽く考えすぎ。

    怒り, 叫ぶ, 男, 悲鳴, エール, うるさい, 狂った, 強調, 叫んで

    スタートは、楽しんで演じる、安心してぶつぶつ言う。
    それで、いいのよ。

    でもギャラをいただくのであれば、もうそれはプロフェッション(職業)だから。

    その時点で、自分が発するセリフの言葉について

    もっとアーティストでなくてはならない。

    子供の絵と、ピカソの絵との対比のようなもの。

    訓練されていないでこれが自然だと言い張る「自称俳優」はただの技術なしの素人。訓練を受けていない子供。感性があるのは素晴らしいけど、それだけじゃダメ。

    感性があって、かつ、技術があって、だから、和物から実験劇からシェイクスピアからジロドゥやサルトルのような哲学系まで全部できるようになる。

    モデル, 男, 女性, 新鮮, 紛争, ストレス, 叫ぶ, クライ, クラッシュ

    ことばの大事さにもっともっと気がつこう!

  • 小説で読むインプロ:仮面の教え3

    小説で読むインプロ:仮面の教え3

    (注:この文章には放送禁止用語が含まれています。敏感な方はご注意ください)

     仮面から逃げるように離れて帰宅するサクルの目の前を、看護師に連れられて身体をかしげて歩く笑顔の若者がぎこちなく横切って行った。サクルはちょっとギョッとして体を固めた。何の危険もないのに。そして、見てはいけないものを見た気がして目を背けた。 

      サクルの通勤路(となるはずの、駅への道)には神経科の病院がある。そこの患者の散歩タイムなのだろう。サクルの中学校はその病院がある丘の麓で、中学校の悪ガキたちはそこを「キチガイ病院」と呼び、弱い同級生がいたりすると「おまえ、キチガイ病院に帰れよ」などと言ってはいじめていたものだ。いま、「キチガイ」という単語は、放送禁止用語になっている。使ってはいけないのだ。英語では、 mad や crazy という単語で、普通に使われている。字幕の翻訳者はどうするのだろう?「あいつ、頭おかしいぜ」とかだろうか。どのような言葉を使おうと、侮蔑のつもりで使えば侮蔑になるし、ただの状態描写のつもりなら、ただの状態描写にすぎなくなる。単語が悪いのではなく、使う人の気持ちのあり方をもっと深く教育すべきなのではないか。

     俺はいまなぜ目を背けたのか?
     なぜ、見てはいけないものを見たような気になったのか?
     それこそただの優越感と、排他主義の元にある考え方なのではないか?

     ジロジロ見るな!と怒鳴られたこともある。確かにそうだろう。その「ジロジロ」の中に、侮蔑の意識が含まれているからだ。いや、侮蔑だけとは限らないな。子供の頃は、同じ人間なのに、「こうであらねばならぬ」という状態から外れている人を見て恐怖を感じた。大人になって、その恐怖が侮蔑に変わるのだ。「自分はああなりたくない」から「自分はそうならなかったぜ」という優越感に変わるのだ。
     しかし、いったいなぜ?
     なぜ人間は、「こうであらねばならぬ状態」を断固として守ろうとするのだろう。
     なぜ、いわゆる「通常」とは異なる人をこんなにも敵視・侮辱するのだろう。 そしてなぜ、その人たちを、逆に特別視しないがために、見ないふりをするのだろう?

     不気味に見える仮面、奇妙に見える仮面の動き、そして神経病棟の純粋無垢な笑顔の若者と壊れた機械のような歩行、それらが大きなイメージの波となってサクルの頭に問いかけの種を植えた。

    【Live Interaction】
    言葉は態度で内容が決まる。字面も大切だけど、根本はそこじゃないんだ。

    この散文は、インプロとコーチングの神さまのような人、キース・ジョンストン著『インプロ』の第1章「肢体不自由なものたち」と繋がっています。
    『インプロ』を読んでみたい方、三輪えり花にお気軽にご相談ください。

  • 小説で読むインプロ:仮面の教え2

    小説で読むインプロ:仮面の教え2

     妙な仮面に出会ってから数日間、サクルは考えていた。あって然るべきものとはなんだ? 本来あるものとはなんだ? 俺は今まで見てきたものはあって然るべきものだったのか? つまり本来あるものを見てこなかったというのか?

     頭の中がぐるぐるするまま、サクルの足は再びあの公園のベンチに向かった。 あ、やってる。大道芸人たちだ。妙な声で喚いたり、飛んだり跳ねたりしている。チェ、ただの馬鹿騒ぎじゃないか。

     だがベンチに座ったまま見ていると、彼らはどうもただ大騒ぎしているだけではないようだった。たまにポツンと動きが止まるときもある。妙に寂しげに見える時もある。かと思うと子供のように無邪気に太陽を見上げたりする。花の匂いを嗅いで幸せそうにくつろいでいるやつもいる。

     あの仮面たちは、心に浮かんだままを自然に行動しているみたい。今まで、太陽を見上げるだけなんて、したことなかったな。花の匂いを嗅いであんな顔をしたことなかったな。いや、あるぞ、子供の頃だ、たぶん。どうして、やらなくなったんだろう。だって思い付いたままの行動は、なんだかガキっぽいし、学校や先生や親たちからは、ちゃんと考えてから、然るべき行動をとりなさい、と教わってきた。

     ちゃんと考えてから、然るべき行動を取りなさい?

     そうか、ひらめきのままに動いちゃダメだ、と教わってきたんだな、これまで。サクルは初めて気がついた。自分は、思い付いたままの生の気持ちやアイディアを、抑えこんで外に出ないようにしてきた、つまり、見ないようにしてきたんだ。そりゃ面接で線一本書けるはずないよな。気づくと仮面たちが一斉にこっちを見ていた。サクルは慌てて立ち上がり、ベンチを後にした。

    【Live Interaction】
    サクルが気がついたのは「普通の教育は思いつき(ひらめき)を抑えるように仕向けられる」こと。これを逆にひらめきのままに行動するよう促す方向へ教育の舵を切ったのが、『インプロ』の筆者キース・ジョンストンでした。(このくだりは本書14ページにあります。)それは1950年代のことでしたが、当時は非常に革命的なことだったのです。ひらめきのままに生徒を行動させるのは、教師にとっても自殺行為であることは昔も今も変わりません。なにしろ「統率」という概念を捨てなくてはならないわけですから。キースのようにひらめきを発展させるには、『インプロ』をぜひお読みください。人生を豊かにする魔法の書『インプロ』が欲しい方は三輪えり花まで。消費税分は無料でお届けします。メルマガでこの記事を受け取っている方はそのまま返信。ブログでご覧の方は、コンタクトフォームからお申込みください。

  • 小説で読むインプロの生き方:仮面の教え1

    小説で読むインプロの生き方:仮面の教え1

     「では、何かここで描いてみてください」
     今日はコマーシャル制作会社の面接なのだ。
     良い大学に入って良い会社に入りなさい。親にも先生にもそう言われて育ってきたサクルはがんばってきた。言われた通りに勉強し、成績は常に上位10名に入ってきた。大学入試は一度失敗したが、良い大学に入って良い会社に入るのだと思い、たくさん勉強した。

     ただ、サクルにも夢があった。
     何か絵とか映画とか、作れる人になりたいな。
     小さい頃は絵を描くのも好きだった。でも何か描くたびに親も友達も笑った。
    「何それ、変なの」
    「ちょっと、なんでそんなに下手なの?」
    「これキモいよ〜」
    「もうちょっとここに影をつけて」
    「それじゃ影つけすぎでしょ」
    「もっとこうして、もっとああして」

     もうどうしていいかわからなかった。自分には才能がないし、想像力も創造性もないんだ。それだけはわかった。絵を描いたりするのをやめた。
     勉強だけは、批判されなかったし、やったことはやった分だけ正当に点数として評価されるので安心だ。浪人時代にもたくさんのハウトゥを学んだ。国語も文章を書くというより、「正しい意味を選べ」式な選択問題ばかりなので大丈夫だ。それに文章を書く時も、てにをはを間違えず、起承転結に従って、最後に道徳的な教訓を知った、などと入れれば点数が高くなるというハウトゥを学べたので、いわゆる大学入試の小論文もお手のものとなった。こうして苦労して、有名難関大学に入ったのだ。良い会社に入りたい。そうしたらきっと何か良いことがあるに違いない。

     「では、何かここで描いてみてください」
     今日は業界最大手のコマーシャル制作会社の面接なのだ。
     何か絵とか映画とか、作れる人になりたい。良い会社とは、有名な会社、有名な会社とは、売れている会社、稼いでいる会社、そう、コマーシャル制作会社。そこなら何か絵とか映画とかに関わる仕事もできそうだ。良い会社だということで親にも先生にも認められる。サクルの夢も、親や先生に批判されずに叶えられるかもしれない。サクルは緊張してペンを握った。描くぞ、と思った。ワクワクした。円から始めようか、いや円が歪んだら落とされるかも。四角を描こうか、いや四角四面でクリエイティブな人間ではないと思われるかもしれない。数学のグラフなら得意なんだが、きっとそれもクリエイティブじゃないからダメだ。木は? いやきっとデッサンができないからだめだ。犬は? 子供っぽい、却下。人間は? 無理無理。この会社のロゴはどうだ? いや、媚を売っていると思われる。だめ。
     ついに、サクルのペンからはひとつの点も、1本の線も、出てこなかった。

     落胆して帰路に着くサクルは、公園のベンチに腰を降ろした。俺はなんてダメなんだ。結局夢は夢か。そういえば、夜眠っている時に見る夢も「夢」。叶えたいことも「夢」と呼ぶのは、それが絶対にできないから、絶対に実現しないから、なんだろうな。英語でも同じように使うよな。全世界、同じなんだろうか。 そんなことをぼんやり考えていると、足元にカラフルな球が転がってきた。気づくと明るい音楽と笑い声が聞こえてきて、ピエロが一人、その球を拾いにやってきた。ピエロ、というより仮面だ。サクルの知っているピエロは、ハンバーガー屋の軒先に座っている人形のキャラクターのように赤い縮れ髪で白い白粉をべったりと塗っていて、分厚い真っ赤な唇を無理やり笑わせて赤い丸い鼻をつけているやつだが、こいつは違う。子供が作ったような幼稚な仮面をつけている。そいつは球を拾うとサクルにそれを差し出した。サクルが身振りで、いらないとすると、そいつは驚いて球を引っ込めた。が、またそれを差し出した。まるでとても美味しいものをどうぞ、と言わんばかりに。サクルが受け取ろうとすると、そいつは今度はそれを引っ込めた。なんだよ。どっちなんだよ。そいつはカラカラと、人生が吹っ飛ぶような明るい笑い声をあげて、サクルの隣に座った。 
    「あって然るべきものだけを見ている人には、本来あるものが見えてこない」
    仮面はそれだけ真面目な声で言ったかと思うとまたカラカラと笑って踊りながら去っていった。

    【Live Interaction】
    仮面が言った言葉はキース・ジョンストンの『インプロ』13ページにあります。人生を豊かにする魔法の書『インプロ』が欲しい方は三輪えり花まで。消費税分は無料でお届けします。メルマガでこの記事を受け取っている方はそのまま返信。ブログでご覧の方は、コンタクトフォームからお申込みください。

  • インプロのお約束3点セット

    インプロをやるとき、守るべき約束があります。
    「インプロをやる」ということ自体が、「インプロ・ゲーム」を使って、インプロの練習をすること。ですから、ゲームをやりながら技術が身に付くわけです。
    で、インプロ・ゲームは、「ゲーム」なので勝ち負けや、勝ち残り線や、ドロップアウトなどがあります。
    ゲームごとのルールもありますが、全てに通じる約束事があるのです。
    すっごく簡単。その約束をやろう、とするだけで、インプロができてしまうという優れもの。

    1. 相手や周りにあるものからネタをもらう
    2. なんでもあり(個人攻撃にならない限り)
    3. ゲームに負けたとき、適当な言い訳を見つけて正当に退場する

    たったの3点。
    でもどれも本当に重要。
    インプロ・ゲームに参加する時、ぜひこれらを使ってみてくださいね。

  • うまいアドリブ

    アドリブと台本

    アドリブは自信を作る

    演技を学び始めて間もない人たちは、アドリブができると、とても喜びを感じます。台本や予定以外のこと、突然のアクシデントに見舞われた時に、自らのひらめきで何かをやり、その場を収めることができると、自分の力を信じる縁(よすが)になるからです。

    台本や予定は、他者が決めたこと。そして、台本や予定があると、「決められた通りにやらなくてはいけない」と皆が思い込みがちです。本当は、台本や予定が定められたら、「そのうえで自分らしく何ができるか」をすれば良いのですが、演技を始めて間もない人たちは、そしてとくに日本人は「誰かに言われた通りのことをする」習性がものすごく強いので、なかなか「自分らしく料理する」ところまでいけないのですね。

    けれど、なにかアクシデントがあると、「その場を乗り越えなくては」と危機管理能力が働き、自らの裁量でなんとかするわけです。そしてその危機を脱したら、その人は、何があっても自分には何らかの乗り越える力がある、と自分を信じることができるようになるでしょう。

    台本に出てくる人たちもアドリブをしている

    全てのキャラクターは、その場その場の危機をなんらかの方法で脱しようとして四苦八苦しているのだと思ってみてください。

    つまり、あなたが台本通りにやろうとしているのに何か邪魔が入った時、それを「えーい、俺、もうこれやっちゃうよ」というノリでその場を何とかしようとする、それとおなじことを各キャラクターがやっているのと同じ状態というわけです。

    そう思ってもう一度台本を見てみましょう。

    危機に陥った時、人によって、どんなチョイスをするかは異なります。あなたはただ、そのキャラクターのチョイスを知るだけです。あなたにはあなたのチョイスがあると思いますが、あなたの演じるキャラクターには、その人なりのチョイスがあります。そのようなチョイスをする傾向のある人とは、どんな人なのでしょう?

    どんなアドリブをする人なのか

    どんなチョイスをする傾向のある人なのか。

    実は、これが、「登場人物」のことを英語で「キャラクター Character」という所以(ゆえん)です。この面白い話は、また別の記事でお話ししますね。

    さて、話を元に戻しますと・・・

    危機に陥って、あなたがアドリブをして、その場を取り繕うことができて、喜びを感じた。それはとても良いことです。最初のうちはそれで良いのです。

    けれど、いずれ、それが、キャラクターのチョイスではなく、普段のあなたのチョイスにすぎないことに気づいていきましょう。

    「あなた」がアドリブができて喜んで飛び跳ねている時代はあっても良い。けれど、その先に、「キャラクター」のアドリブの連続で台本が成り立っていることがわかれば、あなたの演技の才能は見事に開くはずです。

    即興は練習できるし、上手くなれる

    そのためには、演技訓練で、即興(インプロビゼーション。インプロ)の練習は必須です。

    私(三輪えり花)は、台本読解をとても大事にしますが、それは、キャラクターがインプロをできるようになるまで、演者が台本を読み込むべきだ、と思っているからです。

    即興(インプロ)を一人でも練習できる『インプロ:自由自在な行動表現』が役に立ちますよ。
    文字が多いように感じるかもしれませんが、エクササイズを声に出して読んでみるだけでも「なるほど!」がたくさん見つかります。
    そして、ぜひ、文章に心を添わせてじっくり読んでみてください。あなたも素晴らしいアーティストになれることがわかりますから。

  • アレクサンダーとは

    アレクサンダーとは、F. Matthias Alexander。

    19世期末から20世紀初頭に活躍した、オーストラリア出身の俳優です。

    かれは、舞台で突然声が出なくなったのをきっかけに、アレクサンダー・テクニックを編み出しました。

    自覚していない、微かな無理が、緊張する舞台の上では、身体を痛めてしまいかねない。

    だから、無理のない、身体の仕組みに沿った、効率的かつ効果的で、リラックスした状態で極限の演技・演奏をできるようになろう。

    という趣旨のテクニックです。

    Amazonで調べてみるとわかりますが、どうやら一般的には、音楽家のための書籍が多いようです。

    が、これは、正真正銘、俳優が、発声と演技のために考え出したテクニックなのです。

    テクニックの詳細は、『英国の演技術』にも掲載しています。

    ほかに国際ライブインタラクション研究所からのおすすめは:

    音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと

    音楽家ならだれでも知っておきたい呼吸のこと

    アレクサンダー・テクニーク(著者 小野ひとみ)

    アレクサンダー・テクニックについての書籍はたくさん出ていますので、ぜひ調べてみてください。